「裏切り」(シャルロッテ・リンク 著/浅井晶子 訳)の上巻を読みました。
シャルロッテ・リンクの作品は、「沈黙の果て」「失踪者」に続き、3作目です。
今までのリンクの作品では、自立した強い女性が主人公だったが、今回はちょっと異色の女主人公だ。
ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード)の刑事ケイトは、同じ刑事でもあった父親の死の知らせに故郷のリーズに戻ってきた。母亡き後、一人暮らしをしていた父リチャードだったが、無残な殺され方をしたのだった。父の部下でもあった地元刑事ケイレブに捜査の状況を聞くが、なかなか犯人は見つからない。自ら父の殺された理由を知ろうと事件を調べ始めるが、次第にケイトの知らなかった父の秘密が明らかになる・・・
主人公のケイトは、颯爽とした刑事のイメージからはほど遠い。自分に自信の持てないネクラな感じで、未婚で恋人もなく、一人っ子なのできょうだいもいない。友人もなく、父を亡くしてまさに天涯孤独になってしまった。
ケイトはケイレブから、
「本気でなにかを変えようとはしてないんじゃないですか」(略)
「たいがいは自分を憐れむばっかりで」(略)
「私が思うに、あなたは人生のなかで、うまく行かないことばかりをぐちゃぐちゃ考えてる。まるで世界じゅうに自分の不幸以上の不幸なんてないみたいに(略)
(「裏切り」(上)より)
なんて言われ愕然とするが、実はとっくに自覚しているのである。でもなかなか負の連鎖から抜け出せない。そんなしんどさの中でもがくケイトの姿にだんだん共感を覚えてくるから不思議だ。こんな主人公像も現代的なのかもしれない。
下巻でケイトが踏み出す最初の一歩は、美容院へ行くこと。ヘアスタイルを変えるのだ。それをきっかけにケイトは変わっていく。
上巻で明らかになった父親の秘密にはまだ続きがあるようだ。病気で亡くなった母と娘を“裏切った”父。ケイトは父を許せるのか。そしてケイト自身のその後も気になる。
下巻に続く・・・