もりっちゃんのゆるブログ

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「ザリガニの鳴くところ」を読みました

ここのところ黄砂で困っていましたが、今日は少しましになりました。が、今度は天気が下り坂・・・☔ 一度空気がきれいになるといいのに。

 

ザリガニの鳴くところ (ハヤカワ文庫NV)

「ザリガニの鳴くところ」(ディーリア・オーエンズ 著/友廣純 訳)を読みました。

2021年の本屋大賞 翻訳小説部門の第1位で、ほかにも21年のミステリー系のランキングで2位や3位に入った作品です。

書店に並んでから日が経ちましたが、やっと今年購入して読むことができました。

 

舞台はアメリカ ノース・カロナイナ州にある架空の湿地。古い火の見櫓の下で村の青年の死体が発見される。事故か自殺か殺人かー 人々は、村から離れた湿地の小屋で暮らす孤独な少女カイアに疑いの目を向ける。

こうやって書くとミステリーかと思うが、単なる犯人当てミステリーとして読むのはもったいない作品だ。

(ハヤカワ文庫でもHM“ハヤカワミステリ”ではなく、NV“小説”に分類されている)

 

物語は、村の青年チェイスが死体で見つかった1969年と、少女カイアが家族に見捨てられ、学校にも行かず、貧しく孤独に暮らすことになる1952年の話が交互に語られて進んでいく。

カイアが成長し、やがて生活の糧を得ていく様はビルドゥングスロマンのようだし、人種差別が根強く残る地域社会の理不尽さを描く部分もある。

そして何より、湿地の自然描写には圧倒される。この作品では描写を超えている。

作品世界が湿地の自然そのもので、そこに生きるすべて生き物、風や空や海や川の中に、登場人物はもちろん読者も放り込まれる感じがするのだ。

 

犯人だと疑われたカイアは逮捕され、陪審員による裁判を受ける。判決は? カイアはこのあとどうなるのかー

ストーリーは謎を伴って進むが、私が読みながら一番考えたことは、大げさに言えば“人間の尊厳”だ。プライドといってもいい。貧しさも孤独も耐えられる。けれどそれ以上に耐えられないことがカイアにはあったのだと思う。

“ザリガニの鳴くところ”がカイアにとっては、誰も犯してならない神聖な場所だったのだろう。

 

タイトルになっている“ザリガニの鳴くところ”については、文中にこうある。

茂みの奥深く、生きものたちが自然のままの姿で生きてる場所ってことさ。

(「ザリガニの鳴くところ」より)