「黒百合」(多島斗志之 著)を読みました。
押入れの奥の本をガサゴソしていて、「あっ、この本忘れてた」と思って読み始めました。(私の“本あるある”)
物語の舞台は1952年(昭和27年)の六甲山にある別荘地。
今でも六甲山の山上は下界より5度は低いので、避暑地として昔は別荘が多くありました。
阪神間に住む私としては、六甲山はとても身近な山なので興味を持ちました。
14歳の「私」こと寺元進は、父の旧友の別荘に招かれ夏休みを過ごすことになった。別荘には父の旧友の息子で同い年の浅木一彦がいて、ある日二人は不思議な少女 倉沢香と出会う。
3人でスケッチやハイキング、池での水泳など夏を楽しんでいたが、「私」は自分と同じように一彦も香に惹かれていることを感じとりはじめる。
この3人の少年少女を中心とする昭和27年の物語に、進と一彦、薫の両親世代の話(昭和10年~昭和20年)が挟み込まれている。
初めは今と過去、全く別の話として読んでいたが、「ん? この人はもしかしてあの人?」と疑問がわき、そう仮説(笑)をたてて読み進めると最後見事に崩された。
きれいにひっかかった叙述トリックだった。
いちおう答え合わせをしたくてネット検索して調べた。(合っていました(笑))
叙述トリックと書いてしまうとネタバレにはなるが、そう思って読んでもほぼ大丈夫だろうと思う。
それにこの小説の面白さは他にもある。
まず文章は平易で読みやすいうえに、「私」の語りにふさわしい瑞々しい感性にあふれている。
戦前から戦後にかけての六甲山や阪神間の変化もうかがえる。
進と一彦、香の3人の掛け合い(一彦と香は関西弁)は、誰でも自らの少年少女期を思い出させる。
作者の多島斗志之氏の本はだいぶ前に「症例A」を読んでいる。
ミステリーといえば、作者の多島氏が一番ミステリーかもしれない。(興味のある方は検索を)