「五瓣の椿」(山本周五郎 著)を読みました。
時代小説を読んでいるという実感があまりない。「赤ひげ」先生の話も、この「五瓣の椿」もテーマを変えずに現代ドラマにできるのではと思うくらい、時代が遠い気がしない。
人間の心のさま(人情というやつ)を描いているので、それはいつの時代も通じるからだろう。
今年の8月26日付毎日新聞「今週の本棚」で、永井紗耶子氏が“なつかしい一冊”のコーナーに挙げられたのが、この「五瓣の椿」だった。
「木挽町のあだ討ち」で直木賞を受賞されたが、氏が江戸時代に興味をもつきっかけとなった本だという。
どちらの表紙にも椿の花が描かれている。
主人公のおしのは、薬種屋「むさし屋」の一人娘。父親は入り婿で、懸命に働きながら店を大きくした。だが母親は店を放って遊び歩き、不貞を繰り返していた。
父親が労咳(肺結核)を病み、余命わずかなことを知ったおしのは、母親に帰ってきてほしいと頼みに行くが・・・
おしのが次々と罪を重ねていくところは、サスペンス小説のようでどきどきする。
しかし、おしのもやがて、与力の青木千之助に追われる身となってしまう。
犯した罪は誰がどうやって裁くのかという大きな問題がたちはだかり、それにおしのも与力の青木も答えの出ないまま、物語は終わる。
「おまえのしたことが正当であったかなかったか、私にはわからない、だがおまえはそうしたかった、そうせずにはいられなかった、ということだけは真実だーしんじつそうせずにはいられなかったとすれば、それをしたことについて悔やむ必要はないよ」
(「五瓣の椿」より)
与力 青木のことばは優しいが、おしのの行為を決して肯定はしていない。
おしののあまりにも強い意志と、悲しいラストが印象に残る。
NHKのドラマを前に見たが、キャストは以下の通りだった。
おしのは国仲涼子、青木千之助は阿部寛、父親は奥田瑛二で、母親は秋吉久美子・・・
主題歌が華原朋美の「あなたのかけら」で、「五瓣の椿」を読んで一番に思い出したのはこの歌だった。悲しいけど美しいバラードです。