「エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬」(S・J・ベネット 著/芹澤恵 訳)を読みました。
昨年亡くなられたイギリスのエリザベス女王をモデルにした王室ミステリーの第2弾です。
1作目はこちら。 ↓
1作目を読んでだいぶ経つと思っていましたが、この夏のことだったんですね~
今年の夏のなんて長かったことか・・・
2016年。イギリスがブレグジッド(EU離脱)で揺れ、リオデジャネイロでオリンピックが開催され、アメリカの大統領選挙でトランプ旋風が起きた年。
前作の舞台はロンドン郊外のウインザー城だったが、今作の舞台はいよいよ本丸(?)、バッキンガム宮殿へ。(笑)
宮殿の屋内プールで王室ハウスキーパーの死体が発見される。発見当初は事故死とされるが、やがて亡くなったハウスキーパーは脅迫文を受け取っていたことがわかり、女王は秘かに捜査を始める。
公務で多忙な女王の片腕を務めるのは、前作と同じ秘書官補のロージー。迷子になりそうなほど広い宮殿内を走り回る。
王室ミステリーとして謎解きを楽しめるのはもちろん、日々宮殿内で行われる行事やイギリス各地の風景描写も興味深い。
絶景とはこのことだ、とテリーザは思った。九月の高く晴れ渡った青空、すいすいと流れていく白い雲。眼路の限り、草の斜面と高さの不揃いな木立とがだんだら模様のように繰り返され、はるか遠くの丘陵地帯に吸い込まれていく。地平線が近づくにつれ、暗緑色から青紫色へのグラデーションを見せながら、眼のまえに拡がる、見るからに柔らかそうな早緑の草地はアルプスの草原のようだった。『サウンド・オブ・ミュージック』のマリアの姿が浮かんできて、思わず腕を拡げ、駆け抜けたい衝動に駆られた。
(「エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬」より)
フィリップ殿下とテリーザ(当時のメイ首相)が散歩する場面だ。
そして何といっても、聡明な女王の姿に驚きと感動を覚えてしまう。
タイトルになっている三匹の犬は、コーギーのウィローとドーギー(コーギーとミニチュアダックスの交配種)のキャンディとヴァルカン。女王の散歩(という名の思索?)のお供だ。
長年のあいだに、女王は深く考えなくてはならない重要な問題があると、犬を何匹か連れて散歩に出るのが習慣となっていた。何匹かを選んで連れていくのは、連れていく犬があまりにたくさんだと、途中で何度も呼び寄せることになって、考えごとをするどころではなくなってしまうからだ。今にして思えば、贅沢なことだった。最近では散歩のお供をわざわざ選び必要もなくなってしまったわけだから。
(「エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬」より)
高齢になった女王は、新しく犬を迎えることをやめた。女王にとってはこの三匹の犬たちが最後の犬なのだ。
高齢に近づいた私にとっては、老いとの向き合い方を学ぶことにもなった。
今回、優秀な秘書官サー・サイモンは、最初の死体の発見者となったこともあり、少し冴えないのだが、徐々にペースを取り戻し、最後は見事な活躍をする。
サー・サイモンがその生い立ちを振り返り、自分の信念を語る場面があり、印象に残った。
(前略)五十路に入った今、あの日々が自分を鍛え、のちの成長の土台となったことに気づいていた。おかげで何事も自ら働きかけ、努力をしない限り、永遠には続かないものだと理解している。愛情こそがなにより重要であることも、成功するためには耳を傾け、受け入れ、学び、希望を抱きつづけなくてはいけない、ということも。
(「エリザベス女王の事件簿 バッキンガム宮殿の三匹の犬」より)
そうだ。諦めてはいけない。
ラストは女王とフィリップ殿下の深い愛情が私を満たし、幸せな気分になった。
元気を注入された小説だった。