「エリザベス女王の事件簿 ウインザー城の殺人」(S・J・ベネット 著/芹澤恵 訳)を読みました。
昨年、本猿さんのブログで知った本です。ようやく順番が回ってきました。
長きにわたり、イギリスの国と国民のために努めてこられた女王は昨年9月に崩御された。少し前まで公務にあたられていたと聞く。
世界中から愛された女王だったが、イギリス国民の抱く思いにはやはりかなわないと思った。
ウインザー城内で起こった事件を女王が見事に解決する!というミステリーだが、作者の女王への敬愛がそこここに現れていて、それはきっとイギリス国民全体の思いなんだろうと思う。
そのオーラ、そのたたずまい、その知性、ユーモア、そしてなんともおちゃめで可愛らしい様には誰もがひきつけられる。
その姿をもう拝見できなくなったことに改めて淋しさを感じた。
ウインザー城は、ロンドンの西34㎞にある王室の公邸。国王が週末を場所となっている。
物語ではエリザベス女王が公務をおこなっている間、ウィンザー城内で起こった事件から始まる。宿泊晩餐会(晩餐会のあとお泊りする)でピアノとダンスを披露したピアニストの男性が首吊り状態で発見されたのだ。
原題の“THE WINDSOR KNOT”は、ネクタイの結び方の名前だが、殺された男性の状態を表しているといえる。
探偵役はエリザベス女王。でもご本人は公務でお忙しく、とても自ら捜査に動き回ることはできない。きっとそばに仕える秘書がその探偵役を任されるのだろう、そういう安楽椅子探偵ものなのだ、と予想したが、よくあるそんなパターンではなかった。
女王はあくまでも女王。きっとそのイメージを作者は大事にしたかったのだろう。
事件を解決した後、女王がいつもの毎日に戻る場面がよい。
フィリップ(私註:女王の旦那さま)は女王に腕を貸し、ふたりで通路を歩いた。通路の先にステンドグラスの窓が見えた。フィリップの窓が。永遠と復興と希望の窓が。その窓を眺めても、城内の屋根裏部屋で亡くなった青年と、自室でなにも知らないまま生命を奪われた若い女性と、そしてもうひとり、絶望と恐怖を味わいながら死んでいった女性のことを思うと、胸が潰れそうだった。それでもその窓を眺めることで、心を落ち着けてまえに進んでいく力を与えられた気がした。忙(せわ)しない城の日常に、自分を中心に世界が回っている場所に戻っていくための力を。
(中略)そうして人生は続いていくのだ。誰もが自分にできることを精いっぱいするだけ。
それにしても実在の人物が(それも大物!)ぞくぞく登場し、とてもリアリティがあった。
この作品にも続編がある。図書館にあるか調べてみなければ・・・