「河童」(芥川龍之介 著)を読みました。カバー装幀は南伸坊さんです。
いつもコメントをくださる吉田健康さんのブログで、7月24日が芥川龍之介の亡くなった日(命日)で「河童忌」と呼ぶことを知りました。
芥川の小説で「河童」は読んだことがないので、書店に行ったとき新潮文庫を購入しました。
上高地から穂高山へ登ろうとして、霧の中で河童に出逢い追いかけると、地下の河童の国に落っこちてしまった男の話。
異界に迷い込む話は世の東西問わず多くある。昔話の浦島太郎なんかもそのひとつといえる。
ただ、芥川が晩年とりつかれた「死」がぼんやり漂っていて、不気味ささえ感じ、読んでいて落ち着かない。
私は、芥川の書きたかった意図とは違うと思いつつ、語り手が“精神病院に入院している患者”という設定もいったん外して、一種の寓話として読むことにした。
地下の河童の国は、見かけは人間の住む世界と何ら変わりないと作者は言う。しかし、男の住む人間界とは価値観や常識がまったく違っているのだ。
人間社会で抱える問題や矛盾を全く別の方向から対処する河童たち。
いや、別の方向に見えるだけで、同じではないか。
だんだん、どっちが河童でどっちが人間かわからなくなってくる。
異界に迷い込んだあと、そのまま異界に暮らすパターンと、再び元の世界に戻ってくるパターンがあるが、この男は戻ってくる。浦島太郎も戻ってきた。
この男はどうして戻ってきたのだろう。
やっぱりあっちがこっちで、こっちがあっちなのかしら。
さて、「河童」では河童は出産することになっている。そしてお腹にカンガルーみたいなポケットがあるという。なかなか興味深い造形だと思う。
私はこういう異界の生き物に惹かれるので、そんなところにひっかかった。
河童たちの名前も、チャックやトックにクラバックとなかなか愉快だ。
この文庫には、芥川の晩年の作品が収録されていて、もうひとつ「歯車」というのも読んでみようと思っている。