もりっちゃんのゆるブログ

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「哀惜」を読みました

早くに開花したところではそろそろ散り始めでしょうか、今年の桜🌸

今日から4月。我が家では特に何も変わらないけれど、気持ち新たに過ごしたいです。

(各種値上げは勘弁してほしい(T_T))

 

哀惜 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

「哀惜」(アン・クリーヴス 著/高山真由美 訳)を読みました。

書店で見つけた新刊。1580円は痛かった(文庫なのに!)けれど、新たな作家発見になり、推しキャラも増えたので満足しています。

 

アン・クリーヴスは既に英国ミステリ界の巨匠として知られているが、日本では邦訳が<ジミー・ペレス警部シリーズ>しかなかった。

海外ドラマを見るかたなら、女性刑事が主人公の<ヴェラ・スタンホープ警部シリーズ>をご存知かもしれない。

この「哀惜」は、<マシュー・ヴェン警部シリーズ>の第1作としてハヤカワ文庫から刊行された。英国では既に第2作も出ていて、この秋には第3作刊行予定なので、この先も楽しみだ。

 

イギリス南西部のノース・デヴォン。クロウ・ポイント近くの海岸で男の死体が発見された。被害者の男は、アルコール依存症でホームレスでソーシャルワーカーの支援を受けていたが、捜査が進むにつれ、男の別の側面が見えてくる。

捜査を担当するのは、主にマシュー・ヴェン警部、ジェン・ラファティ部長刑事、ロス・メイ刑事の3人。

主人公はマシュー警部だが、複数の視点で物語が展開される。

ジェン部長刑事はシングルマザーで、ハードな仕事と子育てに苦心惨憺。夫からの暴力に苦しんだ経験から、弱い立場の人間に温かい心を寄せる。

マシューは、ウッドヤード・センターという複合施設を運営するジョナサンと結婚していて、二人はゲイのカップルだ。(結婚に至った事情も少し描かれている)

私は最初少し混乱した。マシューがジョナサンを「私の夫」と呼ぶところで。

あれ、マシューは女性だったっけ・・・まだまだ自分に固定観念があることを思い知らされた。

 

殺された男が、自立支援の一環としてウッドヤード・センターでボランティアをしていたことがわかり、夫が犯罪に近い立場にあることから、マシューは窮地に立たされる・・・

 

物語の中心になる複合施設ウッドヤード・センターは、障害をもった人々がリハビリや仕事体験のできる福祉施設、大人になっても学べる生涯教育施設、芸術家が創作活動を行うアトリエなどで構成される施設だ。日本にも同じような目的の施設があるように思う。理想的な施設に思うが、問題も伴う。予算や運営面。

物語に重要な役割を持つ、ルーシーという女性。ルーシーはダウン症だ。父親のモーリスは80歳を迎え、自分がいつまでもルーシーの面倒はみられないという現実と、ルーシーが一人で生きていけるかという心配、ルーシーへの限りない愛情の間で揺れ動いている。

この思いやジレンマは当事者でないとわからないだろうが、私でも想像はできる。

 

表紙の写真やタイトルの「哀惜」から暗いストーリーを想像させるが、思ったほど陰気な小説ではない。マシュー警部はお気に入りのキャラになった。次作を楽しみ待ちたいと思う。

 

最後に、原題の“The Long Call”について。

邦題とは違うので、読後にだいぶ考えた。初めの何章かを読み直して、自分なりの答えを出した。

マシューが殺人の一報を受けて現場に向かうシーン。

マシューはうなずき、車を進めた。窓をあけたままにしておいたので、今度こそほんとうに打ち寄せる波の音が聞こえた。セグロカモメの鳴き声も。博物学者が“長鳴き”と呼ぶ声で、言葉にならない苦痛のうなりのように聞こえると、マシューはいつも思っていた。

(「哀惜」より)

死者を悼む「哀惜」というタイトルも、“The Long Call”というタイトルもどちらも捨てがたいと思った。