「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩 著)を読みました。
この表紙、角川文庫の文豪ストレイドッグスコラボシリーズで、若い読者向けなんですが、在庫の文庫が他になく、勇気を出して(笑)買いました。
乱歩の“密室っぽい”作品ということで読んでみることにしたのです。
短編で本作品の他に、「二銭銅貨」「何者」「心理試験」「地獄の道化師」が入っています。
私は東京のD坂にある白梅軒という喫茶店で、明智小五郎という探偵小説好きの妙な男と話していた。すると向かいの古本屋の様子がおかしい。なんとその店の妻が首を絞められて死んでいたのだ。様々な状況証拠から、私は明智が犯人ではないかと推理するが・・・
(「D坂の殺人事件」作品紹介より)
まだ名探偵として有名になる前の、明智小五郎初登場の作品。
古本屋の妻が死んだと思われる時刻、「私」と明智が向かいの喫茶店から入り口を見ていて、裏口から通じる路地はアイスクリーム屋が見ていた。窓はどこも閉まっており、どこにも犯人の逃げるルートがない状況だ。
厳密には密室ではないけれど、犯人消失(?)のトリックといえる。
短編でここまでの作品を完成させる乱歩はさすが!
トリックの提示で読者の興味をひきながら、人間の深部に巣くう心理を描き出している。犯罪を犯すもの、犯罪を隠すもの、謎を解こうとするもの、それを妨害しようとするもの。犯罪のまわりには、様々な思いの人々が存在する。たまに、読んでいる自分の隠れていた心理がふっと現れて、自分で驚くこともあった。「わたし、こういうタイプかもしれない」と。
「D坂の殺人事件」よりも、「何者」のほうが“密室っぽかった”ように思う。犯人の足跡が、井戸から来て井戸に戻り、お菊さんを連想させる(笑)
この謎はわかりやすく、誰でも予想がつくのではないか。しかし、なぜ密室っぽくしたのかという動機については、予想ができなかった。
「二銭銅貨」は暗号もの、「心理試験」はドラマで使われるポリグラフ検査のようなもの、「地獄の道化師」は明智小五郎が私立探偵として活躍する物語だ。
乱歩の面白さや魅力は、若い頃より今のほうが強く感じる。昔は気味が悪い思いもあったが、そんな作品も乱歩のこだわりとして受け入れられるようになった。
古い日本家屋の意匠では西洋風の密室を作るのが難しい。障子や襖に鍵をかけるわけにはいかない。そこで、日本の密室ものは工夫をしている。
横溝正史の「本陣殺人事件」もその一つだろう。このあと再読して記事にしたいと思っている。