“命にかかわる危険な暑さ”が続いています。毎日聞いているともう慣れてきましたが、よく考えると、暑さが命にかかわるなんて日本に住んでいて思ったことがありませんでした。えらいことになったと思います。
まだしばらく暑さが続きそうですから、みなさん気をつけましょうね。
「黄色い部屋の秘密」(ガストン・ルルー 著/宮崎嶺雄 訳)を読みました。
いつもはアマゾンの画像をお借りしていますが、BOOK OFFで以前に買ったこの本は画像がなく、写真を撮りました。(2004年版)
「黄色い部屋の秘密」を初めて読んだのは小5のときです。学校図書館にあった、おそらく子ども向けの抄訳だったろうと思いますが、とても衝撃を受けました。ストーリーや細かいトリックは覚えていませんでしたが、作者 ガストン・ルルーと主人公 ルールタビーユの名は何十年経っても忘れられません。私に本格ミステリーを教えてくれた本と言っていいでしょう。
パリから数キロ離れたエピネー・シュール・オルジュの町にあるグランディエ城。今は著名な物理学博士スタンガースン教授の屋敷になっている。その離れにある“黄色い部屋”で博士の令嬢マチルドが襲撃される事件が起こった。その状況はまことに奇々怪々。内部から完全に密閉された部屋の中から令嬢の悲鳴が聞こえ、助けようとかけつけた一同がドアを壊して部屋にとび込んだ。が、血の海の中に令嬢が倒れているだけで、犯人はどこにもいなかったー
《エポック》紙の青年記者ルールタビーユがこの事件の謎に挑む・・・
あらすじを書いていても何だか古臭くなってしまった・・・1907年に発表された作品だから仕方ないけれど。
主人公のルールタビーユは18歳の設定。ルールタビーユはあだ名で、本名はジョゼフ・ジョゼファン。“お前の玉を転がせ”という意味だが、賭博の“ルーレット”や“転々と職を変える人”の意味で使われることは、今回初めて知った。
小生意気で、周りからは“ちんぴら記者”と胡散臭がられている。
このルールタビーユ記者の相棒が弁護士のサンクレールで、本編の語り手という構成。
タイトルの「黄色い部屋」はどういう部屋か気になる人もいるだろう。ゴッホの部屋のように黄色い家具で統一されているとかーなど。
「黄色い部屋」はマチルドの寝室で、博士の実験室の隣にある。
こんなふうに描写されている。
外の薄日の光がさっとさしこんで、サフラン色の壁に囲まれた室内の無気味にとり乱された光景を照らし出した。床板ーというのが、玄関と実験室は床がタイル張りになっていたが、《黄色い部屋》は板張りになっているのであるーの上には黄色い茣蓙が敷いてあったが、(後略)
(「黄色い部屋の秘密」より)
密室トリックといっても、秘密の通路や抜け穴があったり、人間は通れないが他の動物なら通れる穴があるーなんてのは真の密室ではないと私は思っている。やっぱ密じゃないとね(笑)
密室を発見するのが一人というのもよくない。その人が嘘をついているかもしれない。
今作の密室はそういう意味で完璧である。《黄色い部屋》にドアを壊して入るのに立ち会ったのは4人いる。4人とも犯人を見逃すなんてことはないし、全員共犯というのも無理がある。
ん? じゃ自殺だろうって? うーん、自殺じゃないんです。大体、マチルダ嬢は命をとりとめ、このあと城に戻って養生することになるのに、二度三度と襲われるのだ。犯人はちゃんといる。
ロジックは完璧なんだけど、モヤモヤする部分もある。
ルールタビーユは裁判で犯人を告発するが、結果的には逃がしてしまう点。
マチルダ嬢の過去を暴きながら収拾していない点など。
それでも、密室トリックの礎になった名作であることは間違いない。
作者のガストン・ルルーは、映画や舞台にもなった「オペラ座の怪人」の原作者でもある。
次に読む“密室もの”、迷っています。ちょっと休んで、他の分野の本にするかもしれません(^^ゞ