「ブラックサマーの殺人」(M・W・クレイヴン 著/東野さやか 訳)を読みました。
「ストーンサークルの殺人」に続く、イギリス警察 国家犯罪対策庁の部長刑事 ワシントン・ポーと分析官 ティリー・ブラッドショーのバディもの2作目です。
かつて刑事ポーによって一人の男が刑務所送りにされたーカリスマシェフとして名声を誇ったジャレド・キートン。彼は娘のエリザベスを殺した罪に問われたのだ。だが六年後のいま、その娘が生きて姿を現した! キートンは無実なのか? あらゆる証拠が冤罪を示し、窮地に立たされたポーを助けるべく、分析官のブラッドショーが立ち上がる。
(「ブラックサマーの殺人」表紙より)
生きて見つかったエリザベスが本人かどうかDNA鑑定が行われ、本人のDNAと一致。それではそもそも殺人事件すらなかったことになる。
しかし、ポーはキートンへの疑いを捨てることはできず、警察に監視される身となりながら捜査を続けるのだった。
DNA鑑定は今では精度もよくなり、証拠能力が高いとされる。その壁をどう破るかーそれが一番のヤマ場だ。
そこが意外でおもしろかったが、前作からの積み残しというか謎のままだった部分について何も触れられていない。モヤモヤが残る。
前作で注目した食事シーン。
今作は少なかったが、ポーがパブで注文したウサギのパイとバター入りのパースニップのマッシュを食べる場面から。 ↓
ポーはふだん、ウサギをあまり食べないー彼の好みよりもぱさぱさしすぎているからだーが、この店のパイはうまかった。ウサギ肉の繊細な味わいがベーコンとリーキとよく合っている。それがこってりしたエッグカスタードに包まれている。バター入りのパースニップのマッシュはこくのあるなつかしい味だった。
(「ブラックサマーの殺人」53より)
リーキは西洋ネギ、パースニップは白っぽいニンジン。
隣人ヒュームの娘ヴィクトリアが作ってくれたテイティポットを食べる場面も。↓
ポーがテーブルにつくと、ヴィクトリアはたっぷりよそってくれた。身を乗り出すようにして陶然とするにおいを吸いこんだ。天にものぼる幸福感に包まれた。てらてらとした子羊肉、濃厚な味のブラッドソーセージ、金色に輝くジャガイモのスライスをスプーンに取り、口に運んだ。目を閉じて、ため息を漏らす。舌がとろけそうだ。
(「ブラックサマーの殺人」51より)
テイティポットはたぶん、ホットポットのことではないかと思う。
羊肉(昔はマトン、今はラムが多い)と玉ねぎを厚手の鍋に入れ、スライスしたジャガイモで覆いオーブンで焼いたもの。ニンジン、カブ、リーキなどが入ったり、ラムの代わりに牛肉やベーコンが使われたり、パイ生地を載せることもある。
ブラッドソーセージは、肉の血を材料に加えたソーセージで、普通のソーセージより黒ずみ、独特のクセがある。牧畜地域では、家畜を無駄なく利用する食品として作られてきた。
どちらも想像するしかないが、おいしそうに感じる。
3作目も刊行されていて予約中。回ってくるまでまだ少しかかりそう。
ポーとブラッドショーのコンビにしばしのお別れです。