もりっちゃんのゆるブログ

楽しく、でも真面目に。 そんなブログを書いています。

「わが職業は死」を読みました

6月になりました。🐌

5月は一番いい季節のはずなのに、調子が悪くて

あまり記事が書けませんでした。⤵

スローペースが続くかもしれませんが、気長にお待ち

いただけたらうれしいです💛

 

わが職業は死 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

P.D.ジェイムズ作品、4冊目です。

今回もかなりボロボロのポケミス版が届きました。

(昭和56年発行)

  ↓

食べたり飲んだりしながら本を読む人は多いと思いますが、

本自体が水濡れでぱっこぱこです。

特に借り物の本は気をつけないといけませんね。

 

さて、ジェイムズ氏の作品はとりあえずこれで最後にしようと

思っていましたが、期待を裏切らないいい出来の作品でした。

私が“いい出来”なんて偉そうに評価するのはおこがましい

けれど、

いわゆる“フーダニット”の本格物としてきれいにでき上がって

いること、

人物、特に主人公のアダム・ダルグリッシュ

(今作では警視長に昇格)の内面が深く描かれていること、

そして、この時代のイギリスの地方の風景や暮らしぶりが

細かく描かれていること、

にとても満足した。

 

ダルグリッシュ警視長が部下とヘリで現場に降り立つとき、

ヘリから見える景色が以下の通り。

    ↓

曲線を描いて光る川、緑の芝生の間を走って、

ちっぽけなそり橋まで続く明るい秋の街路。

だんだら模様の広い緑の野原の横でゆっくり回転する

逆立ちのキングス・カレジ礼拝堂。だが、その町も

すぐ後方に去り、うねる漆黒の海のような沼沢地の

黒い土が視界に入ってきた。真下に湿地の上に

盛り上げた真っすぐな道がある。村々は高い安全な

土地にしがみつくように、その道に沿って並んでいた。

ぽつんぽつんと離れた農家の屋根が低く、泥炭の中に

半分沈んでいるかに見える。ときおり教会の塔が

村と距離を保って壮麗にそびえ立ち、

それをねじ曲がった歯のような墓石が取り囲んで

いた。ー

(「わが職業は死」より)

 

容疑者たちの家に聞き込みに行くダルグリッシュ

その家はこんな感じ。

     ↓

平らな沼地の上にコンクリートと木とガラスを使って

建てた現代的な建物は、二つの白いウィングをたたんだ

帆のように突き出して、薄れてゆく光の中でも、

印象的だった。線の完璧さ、計算しつくされた

単純さだけで勝負しようとする、非妥協的な孤高の姿が

その家にはあった。周囲に見える建物は、刑場小屋の

ように荒れ果ててぽつんと立つ黒い木造小屋だけである。

そして東の空にドラマチックに浮かぶ複雑な形の蜃気楼は、

イーリー大聖堂の壮麗な塔と八角形の聖堂だった。

きっと裏に面した部屋からは、広い空、そしてリーミングス

堤防に切断された、見渡すかぎりの広大な畑が四季

おりおりに、黒い醜い土、春の種まき、そして収穫と

変化するのが見られるのだろう。聞こえるのは風の音だけ、

夏には穀物のつぶやきが間断なく伝わってくるにちがいない。

(「わが職業は死」より)

 

地方の田舎ののどかな風景と、どこか荒れて廃れた風景が

同居しているような、勝手だけれどどこかに存在するような

風景が想像できるのだ。

まるでミステリードラマを見ているようだった。

 

ドラマの舞台は法科学研究所。

登場人物は、犯罪の証拠物件を分析、鑑定し、

裁判のときには証言もする、いわば犯罪に詳しいプロばかり。

その研究所の中で、生物部の部長ロリマー博士が

殺される。

ほとんどの関係者に動機があり、アリバイもあてにならない。

そのなかで確かな証拠と証言のみを手がかりに謎を解くのだ。

 

最後に、犯人は犯罪を告白する。

そのセリフは印象的だった。

「・・・殺人という行為は永久に人間性を断つことです。

一種の死です。私は今や死におもむく人間だ。・・・」

(「わが職業は死」より)

「わが職業は死」というタイトルはここからきているのかな

と思いました。

 

P.D.ジェイムズ氏は今まで知らなかった作家でしたが、

うまみたっぷりのスープを味わった気分です。

海外のミステリーもこれから少しずつ読んでいきたいと

思いました。