もりっちゃんのゆるブログ

楽しく、でも真面目に。 そんなブログを書いています。

「貘の檻」を読みました

だんだん年末の気分になってきました。

コープの配達のお兄さんに、「このカタログが年内最後です」

と言われて。

かかりつけの医院で、年末年始の休診日を聞いて。

今年最後の美容院で、「来年もどうぞよろしく」と

挨拶して。

この2年、何の進歩もなく、終わってしまいました。

遅々とした進みでも、前に進んでいたいんだけど。

 

f:id:moricchan24:20211209143229j:plain

「貘の檻」(道尾秀介 著)を読みました。

文庫本はこちら。 ↓

貘の檻(新潮文庫)

 

道尾氏の本をいくつか続けて読んでいます。

図書館の書棚で見ても、タイトルに生き物の名前が入っている

ことが多く、おもしろいと思いました。

この本にも獏*1という動物の名前が含まれています。

 

漢字で書く「獏」は中国由来の伝説上の生き物で、

顔は鼻の短いゾウみたいで、体はイノシシみたいな感じです。

獏は夢を食べると聞いたことがありますが、ウイキペディアを

見ると、元々中国唐代では病気や邪気を払うと言われていて、

屏風に獏の絵を描いたり、獏の絵を枕の下に敷いたりしたそうです。

それが日本に伝わって、「悪を払う」が「悪夢を食べる」と転じた

という説があります。

実際室町時代には、宝船の帆に「獏」という字を書いたり、

獏枕という獏の形をした枕が作られました。

 

実在の動物 バクは、この「獏」に似ていることから付けられた

そうですが、逆の説もあります。(実在のバクから伝説の獏がうまれた。

私はこっちと思っていました)

私は動物園でマレーバクを見たことがあります。

細いブタな感じの体で、鼻がやや長く伸びています。

 

悪夢を見たときは「ゆうべの夢は獏にあげます」と3回

唱えるとよい、というおまじないがあるそうですが、

私は知りませんでした。

それほど恐ろしい悪夢を見たことがないというのも

ありますし、目覚めたときは覚えていてもそのうち忘れて

しまうというのもあります。

この小説のモチーフのひとつがまさに悪夢です。

 

主人公の大槇辰男(おおまきたつお)は、仕事を辞め、

妻と離婚し、息子の俊也(しゅんや)とは面会日のみ会える

日々だ。

不整脈がきっかけで飲むようになった心臓の薬が、

長年苦しんできた悪夢の記憶を薄れさせる効果があることに

気がつき、以来辰男は依存している。

しかし、悪夢は辰男の過去の出来事と関係があるのではと思い、

妻の留守中預かることになった俊也と共に、

昔住んでいた長野県の寒村に向かう。

 

オーソドックスなミステリーだと思いました。

怪しそうな人がやっぱり怪しくて、謎もすっかり明らかに

なってすっきりします。

でも・・・

すべてが少しずつ違っていた。

誰もが少しずつ思い違いをしていた。

(「貘の檻」“終章 貘の檻”より)

せいで、誤解が誤解を生み、謎の解決には犠牲が大きく

なりました。

何といっても、悪夢の描写が怖い・・・気持ち悪い・・・

こんな夢を見たら誰でも平常心を失うだろうと思う。

獏に悪夢を食べてほしいとずっと願っていたら、

獏は夢を食べてどんどん大きくなり、しまいには自分まで

食べられてしまうのか・・・

 

辰男の悪夢と薬物依存については、希望を感じさせるラストで

じ~んとしました。

悪夢の檻から出て、自由になれる日が来るといいな。

息子 俊也のためにも。

 

*12/10・12/12 加筆修正しました

*1:本のタイトルは貘となっていますが、記事では異体字の獏を

使っています