もりっちゃんのゆるブログ

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「存在しなかった男」を読みました

存在しなかった男

「存在しなかった男」(大村友貴美 著)を読みました。

大村氏の本は今年何冊か読みました。

現代の問題を抱えた地方社会を舞台にした小説でした。

この作品は、それとは別のテーマです。

 

主人公の北館奈々(きただてなな)は津嶋栄(つしまさかえ)と

結婚式を挙げ、ハネムーン先のタイから羽田空港に帰ってきたところ。

空港に着陸する前、「知り合いを見つけたから」と席を外した津嶋。

眠かった奈々はアイマスクをつけたまま眠っていた。

しかし津嶋はそのまま戻らず、奈々は空港にひとり残されたのだった。

 

こんな始まり。

夫(厳密にはまだ籍を入れていないので婚約者)が失踪してしまう

という話は小説でもドラマでも多い。

どんな展開が予想されるか。

私が一番に思い出したのは、松本清張の「ゼロの焦点」。

夫は別に家族を持ち二重生活をしていた、というのはよくある。

結婚詐欺というパターンもある。

あとは自分の意志で失踪したとか、事件に巻き込まれたとか。

 

この津嶋という男性の場合、

まず飛行機の乗客名簿に名前がなかった。(奈々の隣は空席扱い)

出入国記録を調べると、津嶋はタイへ出国も、日本へ入国も

していなかった。

奈々が一緒にタイへ行った男性は誰なのか・・・

 

奈々がタイのバンコクで占い師にこれからのことを占って

もらったとき、占い師が奈々に告げた言葉の中で印象に残った

言葉があるので、少し長いが引用する。

「希望の種は、自分の中にあるの。人からなにかきっかけを

与えられても、種がなければ育たない。そして希望は絶望から

突如として這い出てくることがあるわ。生まれてくるのよ。

生きたいと身体が欲しているうちは希望の種が潜んでいる。

それは命が尽きるまで、たぶんどこかに埋まっていて、自ら

育つのを、あるいはその存在に気づいて掘り起こされるのを

待っている。いい?忘れないで。運命に見放されたと思い、

もうだめだと思える瞬間を少しずつ引きのばしてその日を

生きてみて。今日は何とか過ごせそうだ、明日はわからないけれど

って・・・。そうするうちに、時間は刻々と過ぎていくから。

その人がどんな状況にあっても、一分一秒は誰にも等しく

過ぎていくのよ」

(「存在しなかった男」“第九章 表と裏”より)

 

「希望の種」っていい言葉だなあと思いました。

私の中にも眠っているかな。希望の種。